「オープン教材」をつくろう!(2021年度Sセメスター、Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「未来の学びを考える」(2021年度Sセメスター、Aセメスター)の授業の様子を紹介します。受講者は、Sセメスターが20名(2年生15名、4年生5名)、Aセメスターが18名(2年生15名、3年生1名、4年生2名)でした。

担当教員:中澤明子(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)

概要

インターネットには、さまざまな教材(テキストや動画など)があふれています。また自分で教材を作成して公開することも容易になっています。
「オープン教材」は、インターネットで公開されている、大学や個人などが作成した誰でも自由に使える教材のことです。なぜこのような教材がインターネットで公開されるようになったのでしょうか。そして、わかりやすい教材を作るには、どのような点に気をつけ、どのように作成すればよいのでしょうか。

この授業では、オープンエデュケーションと教材設計の理論や手順について学んだ後、オープンエデュケーションに関する教材をつくります。教材づくりを通じてオープンエデュケーションに関する理解を深めます。

授業の目的・目標

本授業の目的は、オープン教材やその背景となるオープンエデュケーション(教育のオープン化)、教材設計の理論・方法について理解することでした。また、それらの知識をより深く理解するため、オープンエデュケーションやオープン教材について学べ、インターネットで誰でも自由に使えることを想定した教材(オープン教材)を作成しました。

目標は、以下の6点でした。

  1. オープンエデュケーションやオープン教材の定義を説明できる
  2. オープンエデュケーションやオープン教材の事例を列挙できる
  3. 教材設計の理論と手順、注意点を説明できる
  4. グループで作成する教材を設計できる
  5. グループで教材を作成できる
  6. 教材設計の理論に基づいて他者の教材を評価できる

授業の流れ

本授業は、大きく三つの内容・活動から構成されています。

1. オープンエデュケーションの概要

Sセメスターでは、第2回、第3回の授業において、オープンエデュケーションやオープン教材の定義や事例に関する講義と議論を行いました。

Aセメスターでは、Sセメスターの内容に加えて、第4回の授業においてオープンエデュケーションの第一人者である重田勝介氏(北海道大学情報基盤センター准教授)によるゲスト講義を行いました。ゲスト講義では、オープンエデュケーションの最新の動向について国内外のプロジェクトや事例の紹介や意義と課題について紹介いただきました。

2. 教材設計の理論・手順

教材設計の理論と手順についてジグソー法を用いながら学びました。教材設計の理論と手順を3つの資料に分けて内容を説明し、それぞれをジグソー資料として学生に読んでもらいました。担当している資料ごとにエキスパート活動を行い、どのように他者に説明するかを議論してもらった後、ジグソーグループに分かれて相互説明を行いました。ジグソーグループでは、相互説明の後で「教材をつくる際に最も重要だと思うこと」について議論してもらいました。最後に議論した内容をクラス全体で共有しました。

また、教材をつくる上で重要となる、第三者の著作物の使用やライセンスについても扱いました。教材をつくり公開する際には、自分たちがつくった教材にどのようなライセンスを持たせるかを考えることが必要になります。オープン教材として公開するには、再編集などを許可する必要がありますし、その場合、教材の中で第三者の著作物を使用する際に注意がもとめられます。CCライセンスやパブリックドメインといった、教材の作成と公開に関わる著作権やライセンスについて、ワークを交えながら学びました。

※オンライン授業でのジグソー法については、こちらをご覧ください。

 

3. 教材の設計・作成

Sセメスターでは第6回以降、Aセメスターでは第7回以降の授業で、教材の設計と作成を行いました。

何もないところから教材をつくるのはとても大変です。またこの授業では、オープンエデュケーションやオープン教材について理解を深めることを目的としています。これらの理由から、オープンエデュケーションやオープン教材について学べる教材をつくることを目指しました。さらに、教材を使用する場面や対象者を絞りやすくするため、教員が4つのストーリー(右図)を用意し、学生はその中から一つのストーリーを選びストーリーに示されている課題を解決する教材を作ることにしました。これにより、教材の学習目標や対象者を検討しやすくしました。個人もしくはグループでストーリーを選択した後、設計書の作成を行いました。設計書はワークシートになっており、すでに学習した教材設計の理論・手順に沿った項目で構成されています。学習目標や教え方などの各項目について、個人やグループで考え、ワークシートへの記入を行いました。

設計書の作成を行った後、中間発表を行いました。中間発表では設計書の内容を発表し、教材設計の理論・手順に基づいた評価シートを使って相互評価を行いました。互いに良い点や改善したほうがよい点などをコメントしあい、設計書の改善につなげました。

中間発表後は、修正した設計書に基づいて教材を作成しました。そして、作成した教材を最終発表で共有し、相互評価を行って授業を終えました。

なお、Sセメスターはすべてオンラインでの授業、Aセメスターは中間発表までをオンラインでその後は対面で授業を行いました。

 

受講者の感想

Sセメスター

「教材づくりが、オープンエデュケーションへの理解を深めることに対して、役立った/役立たなかったか」についての履修者からの感想をいくつか紹介します。まず、「教材を作る上で内容に誤りがあってはならないので、しっかり確認する必要があり、その点で理解が深まった」や「教材を作る中で、自らオープンエデュケーションの資料を探し、 まとめなければならなかったので、そうしているうちに理解が深まりました」のように作成過程で内容を調べることでより深く知ることができたという感想がありました。次に、「教材作りにおいて初めて学んだことを人に説明しなくてはならない立場になるのでもう一度学び直すきっかけになった」や「自分で作る際に復習することもあり、理解を深めることに役立ったと感じております」のように、教材作りが授業前半で扱ったオープンエデュケーションの内容を復習する機会となり、理解が深まったという感想が見られました。ほかにも教材づくりが内容の理解に寄与していることが窺える感想が多数ありました。

Aセメスター

13 回の授業終了時、受講生にアンケート調査を行いました(回答者 15 名)。授業前半のオープンエデュケーションやオープン教材の定義等に関する授業と、授業後半の教材設計書・教材づくりがそれぞれオープンエデュケーションについて理解するのに役立ったかどうか(とてもあてはまる〜まったくあて はまらないの 5 件法での回答)については、11 名かが「とてもあてはまる」、4 名が「ある程度あてはまる」と回答しました。また、教材づくりがオープンエデュケーションへの理解を深めることに対しての感想として「とても役立ちました。実際にオープンエデュケーションについてのオープン教材を作成する中で、改めて授業で学んだ内容を振り返ったり、 それでも理解しにくいところは自分で調べて考えたりできました」、「話を聞くだけではあまり頭に入りませんし、すぐ忘れてしまうと思うので、実際に教材を作ってみるというのは定着するという意味で役に立ったと思います」といったものが見られました。これらは S セメスターの感想とも共通しており、教材づくりを通じた理解が示唆されます。

Sセメスターと異なるのは、授業後半で行う教材づくりを対面授業で行った点です。対面授業の際は、オンラインで参加する学生もおり、ハイブリッド授業(教室とオンラインとで同時に授業を進行) を実施しました。とりわけ、グループワーク、グループディスカッションをハイブリッド授業で行うのには工夫が必要でしたし、ネットワーク不調で学生がコミュニケーションとれないといったこともありました。そのため、対面(教室)とオンラインとでコミュニケーションがとりにくいといった声が見られました。ハイブリッド授業でアクティブラーニング型授業をどのように行うかについては、今後の検討課題になると思われます。

 

問い合わせ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中澤明子)
dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp