実践者
吉田塁(アクティブラーニング部門)
科目名
初年次ゼミナール理科 共通授業
人数
100~200名
授業に関する基本情報
初年次ゼミナール理科とは、グループによる協同学習を伴う、自然科学の基礎的な研究技法の習得および自然科学の学問への導入を目的に、1 年の理科生全員必修で1クラス20 名程度の少人数制で実施されているアクティブラーニング型授業です。
少人数のクラスに分かれる前に、全員に知っておいてもらいたい事項、例えば、研究とは何か、研究の具体的な進め方、学術情報の検索方法、研究倫理などを学んでもらうための共通授業が実施されます。私は、共通授業の設計および実施に深く関わらせていただき、Think Pair Share の方法を取り入れることを提案し実施しました。
実践している手法の具体的な内容
共通授業では、まず学生たちは大学における学び、研究とは何か、研究のプロセスに関する説明を聞きます。
その後、研究のプロセスを理解することを目的として、研究計画の体験をします。
具体的には、計画する内容を絞って、「大学において、学習効果を最大化するグループワークの最適な人数を知るためにはどのような研究計画を立てればよいか?」という問いについて、Think Pair Share の流れに沿って考えていきます。
表 Think Pair Share の流れ
番号 | 内容 | 所要時間 |
---|---|---|
1 | 1 人で研究計画について考える | 3分 |
2 | 2~3人で計画について議論する | 5分 |
3 | 2~3人で話したことを全体に共有する | 3分 |
まず、学生は1 人で実験計画を考えます(1)。
その後、近くの学生同士でペアになって、人数が合わない場合は3 人グループになって議論します(2)。
そうすると、
「まず、何をもって学習したかを決めないといけないから、試験の成績を効果の基準としよう」
「講師が異なるとその影響が結果に出てしまうため、講師は同じにしないといけない」
「実験的に行うには倫理的な配慮が必要だ」
など、研究を実施する上で考慮しなければいけないポイントを挙げてくれます。
そして、それらを全体で共有して、教員から適宜フィードバックすることで、研究に関する理解を促します(3)。
その手法を実践して良かったこと
考えた研究計画が完全に一致するということは少なく、学生同士話し合いを通して、それぞれの計画のメリット・デメリット、改善案を議論してくれていました。その活動を通して、研究計画を立てる際には様々な点を考慮する必要があることを深く理解してくれていたようです。ただ、話を聞いているだけでは、得られなかったことを学んでくれたと感じています。
また、考えて議論するという構成をとっているため、議論する時に話せない人が少ない点がまず良かったと思います。もし、1 人で考える時間をとらずに最初からペアで話してくださいとすると、考えを練る時間もないですし、話せる人がずっと話してしまうという状況が生まれやすいです。
そして、2~3 人で話すという点も、話に参加しないフリーライダーを少なくするという点で良かったと思います。6 人で議論する場合、単純に考えて、2 人で議論するときに比べて、1 人あたり話せる時間が 1/3 になりますし、議論に参加しないフリーライダーが多くなります。
その手法を実践して感じたデメリットや難しさ
まず、デメリットとして挙げられるのは時間です。1 人で考える、ペアで共有する、全体で共有するという流れで実施すると、少なくとも10 分はかかってしまいます。そのため、ここぞ、というところで使わないと授業で伝えられる内容が少なくなってしまいます。
共通授業に関しては、105 分間の中で、大学における学び、研究、学術情報の検索方法、研究倫理など多くの内容を伝える必要があったため、Think Pair Share が最も長いワークになりました。研究計画を考えるワークとしてこの手法を用いた理由は、研究計画を模擬的に立てることで研究というものを、ほんの一端ではありますが、体験してもらえるだろうと考えたため、また、授業中盤で学生の注意を引いて集中力を維持したかったためです。Think Pair Share は時間がかかるため、授業全体の設計が重要になってきます。
また、難しさとしては、指示出しが挙げられます。おそらく「教育の研究に関する計画を立ててください」という漠然とした指示出しでは上手くいっていなかったと思います。その指示出しを受けても、学生は何をすれば良いかわからなくなってしまい、1 人で考える時間、議論する時間は無駄になってしまう可能性が高いです。そこで、考えてもらうところを絞り、「大学において、学習効果を最大化するグループワークの最適な人数を知るためにはどのような研究計画を立てればよいか?」という、まだ詳細に決める必要があるところはありますが、何を考えれば良いかわかる程度の具体性をもたせました。
これから実践する先生へのアドバイス
Think Pair Share を導入するにあたって、指示出しはできるだけ具体的であること、学生の意見を聞いたら教員からフィードバックすることなど多くの留意点がありますが、ペア作りが上手くいかずに、この手法を使わなくなってしまったという声を聞いたことがあります。そこで、ここでは本授業で用いたペア作りに関する3 つの工夫を詳しくお話しさせていただきます。
1 つ目は、座れる席を制限したところです。授業を実施したのは900 番講堂など広い教室で、100~200 名が入るには少し大きな教室でした。そのため、一番後ろあたりの席は座らないよう、教室の後方で配布資料を渡して、それよりも前に座るよう誘導しました。そのおかげで、広い教室で学生が点々に座るのではなく、ある程度密に座ってくれました。そうすることで、ペアを作りやすい環境、議論しやすい環境を作りました。
2 つ目は、ペアの作り方を具体的に指示したところです。ペアを作る時に、「近くの学生でペアを作ってください」という指示出しではなく、「長机の端からペアを作って、真ん中になってしまった人は右のペアに入ってください。机に1 人しかいない場合は、後ろの机のペアに入ってください」とかなり具体的にペアの作り方を指示出ししました。このように指示出しするとペアの作り方が機械的に決まるので、ペアを作ってもらいやすくなります。
3 つ目は、ペアを作る時間を少し設けたところです。ペアを作って議論するという活動を同時にやってしまうと、ペアを作らずに1 人になってしまうことがありました。そこで、ペアを作る時間を別途設けてペアができるまで待つことで、学生も少し移動してペアを作るようになってくれました。
工夫すれば大人数授業でも Think Pair Share を取り入れることができるので、ご興味がある方は試していただければ嬉しいです。