つくることで、ふりかえる

皆さんは、ご自身の経験をどのようにしてふり返りますか? 日記などの記録を読み返したり、映像の記録を見たり、出来事を思い出して誰かに話す…など、様々な方法をとられているかと思います。ここでは、作品をつくって行うふり返りを紹介します。

概要

アクティブラーニング部門で開講した、2021年度Aセメ開講の全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「未来の学びを考える」、2022年度Sセメ開講の全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「未来の学びを考える【文献講読編】」では、それぞれ第9回、第10回の授業において、学生自身が経験した教育・学習経験をふり返り、それまでの授業で扱った教育・学習の理論や知見・事例と結びつけてその意味を考える活動を行いました。

やり方

活動は次の手順で行いました。

ワークショップをデザインする際のモデルに「TKFモデル」というものがあります。「T:つくって、K:かたって、F:ふりかえる」という流れでワークショップの活動を構成するというものです(茂木2014)。本授業では、このモデルを援用して、上記の流れで授業を進めました。どのように各ステップを行い、どのような様子だったのか説明します。

(1)つくる

これまでの自分の「学び」について最も印象に残っている場面をブロックでつくるよう伝えました。おもしろかったことやインパクトがあったことなど、「印象に残っている」ということの定義も学生に任せました。学生たちは、約7分間で作品をつくりました。高校や大学入学後の出来事で自分の学びになった経験を表現する学生もいれば、これまでの自身の学びのプロセス全体をつくる学生もいました。

(2)かたる①

次に、つくった場面をほかの人に説明してもらいました。いつ、どこで、何をしている場面かの情報を含んで説明するよう伝えました。また、説明者の左隣に座っている学生が「なぜ印象に残っているか」、「その時、どんな気持ちだったか」、「さらに聞きたいこと」を説明後にインタビューするように伝えました。

(3)ふりかえる①

これまでの授業で扱ったトピックと作品とを関連づけます。トピックカードを事前に用意しておき、関連するものを作品の周囲に配置してもらいました。また、関連すると考える理由や補足説明をふせんに書き出して貼付してもらいました。トピックカードを配置するには、トピックの内容を思い出さなければなりません。どの学生も、それまでの授業の資料を何度も読み返し、懸命に内容を思い出そうとしていました。

活動で使用したブロックとトピックカード

(4)かたる②

どんなトピックカードを置いたのか、なぜ関連してると考えたのかをほかの人に説明してもらいました。

(5)ふりかえる②

作品とトピックとの関連づけについて、未来の学びを考える上でヒントになりそうなことがあったかどうかを考えてもらいました。

 

学生の反応と感想

作品づくりと可視化

学生たちの様子をみていると、ブロックで作品をつくりあげ、それを媒介として自身の経験を説明できていたように思えます。また、作品について質問することで、経験の語りを深めていたように思われました。実際のところ、作品づくりについて学生たちはどのように感じていたのでしょうか?

2022年度Sセメの授業において、この活動について質問してみました(6名の学生が回答)。

「ブロックで作品を作るのが大変だった」という質問に対して、「まったくあてはまらない」〜「とてもあてはまる」の5件法で尋ねたところ、1名の学生がとてもあてはまる、3名がある程度あてはまる、2名があまりあてはまらないと回答しました。大変さを感じた学生が多かったようです。

また、「自分の経験をブロックで可視化できた」という質問に対しては、とてもあてはまる、ある程度あてはまるともに3名ずつが回答しており、全員が可視化できたと感じていたようです。

総じて、大変さを感じつつも、経験を可視化できたと感じていたことがわかります。

授業内容のふりかえり

トピックカードとの関連づけの際、予想以上に学生たちが資料を何度も確認し、授業内容をふりかえっていました。この活動は自身の経験のふりかえりや意味づけをねらいにしていましたが、学習内容をふりかえるのにも有効だったのではと感じます。

学生にこれまで扱った文献・トピックとの関連づけは大変だったかを尋ねてみたところ、とてもあてはまる1名、ある程度あてはまる1名、どちらでもない2名、あまりあてはまらない2名と、回答がわかれました。

一方、ブロックでの作品づくりは自分の教育・学習経験のふり返りに役立ったという質問については、とてもあてはまる3名、ある程度あてはまる2名、どちらでもない1名となりました。役立ったと感じている学生がほとんどでしたが、どのような経験を取り上げたかで意味あるものになるかどうかが決まると思われます。意味あるものになるよう、つくる作品の観点を細かく設定する(例:自分にとってポジティブな経験など)ことが必要かもしれません。

 

この授業では、最終的に未来の学びがどうなるかについて考え発表します。「未来の学びについて考えよう」といきなり言われてもなかなかできません。未来は過去・現在と繋がっており、過去や現在の経験には未来を考えるヒントがあります。未来の学びを考えるための手がかりとして、過去・現在を参考にするためにこの活動を行いました。ブロックで作品をつくることで自分の中のメージを具体化し、さらに他者に説明することでそのイメージが吟味されます(茂木2014)。

また、本授業では、トピックカードとの関連づけを行うことで、教育学的な観点から自身の経験を捉え直すことができると考えました。学生の感想では、「自分の経験を客観視すると自分の学習経験がどのような意味を持っていたか分かりやすくなりました。そのような形で具体的に認識すること自体がとても意義あることと感じました」といった記述があったことから、活動のねらいを達成できたのではと思います。

皆さんも、「つくって・かたって・ふりかえる」活動を授業に取り入れてみてはいかがでしょうか。

参考文献

茂木一司(編集代表)(2014)協同と表現のワークショップ ―学びのための環境のデザイン―[第2版].東信堂

※本記事は、AL NEWSLETTER Vol.7, No.4 の記事を加筆・再構成したものです。