「国際紛争ケースブックをつくろう」(2020年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「国際紛争ケースブックをつくろう」(2020年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。今セメスターが初めての開講となりましたが、受講者は11名(1年生1名、2年生3名、3年生4名、4年生2名、修士1年生1名)でした。全回オンライン授業(ZOOMミーティングを利用)となりました。

担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)
担当TA:由地莉子(教養学部教養学科国際関係論コース)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。

そこで、この授業では、複数の国際紛争の経緯や構図、原因等について調査し、最終的にケースブックを作成することを目指しました。その過程で、ある国際紛争に対する見方は決して一様ではないことに気づき、できる限り客観的に各紛争を捉えるための方法を習得することを期待しました。

2.授業の目的・到達目標

目的
本講義で学んだ国際紛争の経緯や構図、原因等に関する知識を使いこなして、国際紛争の発生や激化を防ぐ策を自分の頭で考えられるようになる。

到達目標
①国際紛争に関する資料・文献を適切に収集できる【成果物で評価】
②国際紛争の経緯を説明できる【成果物で評価】
③国際紛争の構図を説明できる【成果物で評価】
④国際紛争が発生・激化の原因を説明できる【成果物で評価】
⑤国際紛争の発生・激化を防ぐ策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【成果物で評価】

3.授業の流れ

授業スケジュール
ガイダンスーケースブックづくりから学べること(第1回)

国際紛争に関するケースブックをクラス全体でつくることで学べることを考えました。担当する紛争の5W1H、すなわち主体(who)、争点(why)、時期区分(when)、民族・宗教・政治体制・経済状況(where)、当事者・第三者の行動(what&how)について正確に理解するために複数の文献・資料にあたって丁寧に情報収集をするのはもちろんのこと、他の紛争を担当するクラスメイトとの意見交換を通じて、紛争間の関係性や前例が後例に与える影響についても学べることを確認しました。

ケースブックの改訂(第2回~第7回)

いきなりケースブックをゼロから作ることは難しいので、まずは練習として、教員の方で概略のみを記したものを作り、その改訂から始めることにしました(今年度が初めての開講のため、教員の方で「たたき台」を準備したわけですが、次年度以降は、前年度までの授業で作成されたものを改訂していくことを予定しています)。ソマリア、ルワンダ、ボスニア、アフガニスタン、リビアの5つの紛争を扱う2・3人のグループに分かれ、グループ内・グループ間のディスカッション、教員・TAからのフィードバックを繰り返し、ケースブックの改訂を進めていきました。第7回では、グループごとに、その最終成果を報告しました。

なお、第3回には、国際連合政務・平和構築局 政務官の高橋尚子氏がゲスト講師としてお越しくださり、国連事務局における紛争の分析方法について紹介してくださいました。国連に研究・キャリア上の関心を有する学生が多くいることもあり、画面越しとはなりましたが、活発な質疑応答がなされました。

ケースブックの新規作成(第8回~第12回)

改訂作業で学んだことを踏まえて、ケースブックをゼロから作る段階へと入っていきました。コソボ、イラク、シリア、イエメンの4つの紛争を扱う2・3人のグループに分かれ、グループ内・グループ間のディスカッション、教員・TAからのフィードバックを繰り返し、その最終成果を第12回で報告しました。改訂作業の段階に比べて、事例(紛争)間の関係にも目を向けるグループが多くなるなど、確かな成長が感じられました。

まとめーケースブックづくりから学んだこと(第13回)

各自がケースブックづくりから学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降のケースブックの授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

4.受講者の感想

  • 紛争の記述というのは、あらゆる点において政治性を伴うものだということを痛感しました。犠牲者数、取り上げるアクターの扱い(主体とするか、介入主体とするか等)などに関しても、書き手の価値観が図らずも反映されることは否めないように思います。したがって、報道のみならず学術論文などから情報を得る際にも常に上記の点に留意しながら分析を心掛けたいと考えています。
  • 前史・社会構造が紛争発生の素地を作っている場合が多いことや、紛争を始めるのは簡単だが終わらせるのは困難なことを学んだ。
  • 他者が読むことを想定している点では論文と似ているものの、一読して紛争構図が掴めるように要点に絞って記述する作業はむしろかなりの労力を要しますが、だからこそ情報収集及び取捨選択の方法に関しては一定のスキルが身についたように感じます。また、他班のケースブックとの関連を意識することにより、自ずと自分が記述している紛争へのアナロジーを見出したり、前例の後例への影響を発見したりすることができたため大きな学習効果があったと思います。
  • 一つのケースブックを作るのに時間がかかる分複数の紛争について調べることは難しいですが、この授業のように複数グループでお互いに学び合うことでその欠点もカバーできると思いました。
  • 一人で学ぶよりもはるかに作業効率や吸収が良かったと感じます。誰かとお互い助け合ってチェックし合いながら一つの紛争について学んでいくことで、自分では気づかなかった論点や情報までカバーできました。ただ受け身で情報を得るのではなく自分たちで整理してケースブックを作るという経験は、紛争理解にはかなり効果的なのではないかと感じました。

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史)
kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp