同期型ハイブリッド授業でのアクティブラーニング:初年次ゼミナール文科 岡田晃枝先生インタビュー(1)

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2022年度は原則対面授業となりました。とは言え、COVID-19への感染や濃厚接触者になる等により、オンライン授業も併用されています。とりわけ、教室で行われる対面授業を同時にオンライン配信する、同期型ハイブリッド授業(ハイフレックス授業とも言われることがあります)を経験された先生も少なくないのではないでしょうか。同期型ハイブリッド授業では、どのようにアクティブラーニングを取り入れることができるでしょうか?

SセメスターにKALSで同期型ハイブリッド授業を実施されていた岡田晃枝先生(大学院総合文化研究科 准教授)に、授業の様子や授業運営のポイントをお伺いしました。

授業の概要

中澤(聞き手、アクティブラーニング部門教員) KALSをお使いいただいた授業は、初年次ゼミナール文科注1を2コマだったと思います。授業の概要を教えていただけますか?

岡田 ハイブリッド授業を実施したのは金曜1限の授業でしたね。「紛争と介入をめぐる諸問題」というタイトルの初年次ゼミナールです。国際政治の中で中核的に重要なイシューである武力紛争に注目するのですが、その中でも第三国や地域機構、国際機関など、紛争当事者ではなく他のアクターによる当該紛争への関わりのほうに主眼を置き、自分でテーマを設定して研究発表をする授業です。理想主義的な平和観を持っている大学の1年生は安易に「正しさ」を求めたり、十分な観察なしに「効果があった」「不十分だった」といった短絡的な結論に陥りがちです。そうならないよう、複数のアクターの視点から現象を見る努力をし、国際政治の現実を見据えつつ結論を導き出せるように、教員やTAからいろいろなヒントを与えつつ、学生個々に研究を進めてもらいます。外国語の資料を含め、広い範囲でたくさんの資料を各自で探し、それらをできるだけ客観的な視点で丁寧に確認して議論を立ててもらいます。

とはいっても、みんな何かしら自分が考える「正しさ」というものが心の中にあって、紛争の片方の当事者に同情的・共感的なスタンスを取ってしまいがちです。断片的な情報から予断を持ったり先入観にとらわれたりといったことも起きやすいテーマです。ですから、自分が考えた研究計画に客観的に突っ込みをしてもらうことがとても重要になってきます。もちろん全体発表で私やTAが突っ込みをすることもありますが、そうすると「ダメだから先生が指摘したんだ」と考えてその部分を簡単に削除して別のテーマに飛びつくといった傾向が往々にして見られます。立てた仮説を簡単に捨ててしまわず、批判的なコメントをされても何とか立証できないかと別の資料を探したり再度ロジックを点検したりと真剣に考える癖をつけるためには、まずは学生同士でのピアレビューが効果的だと思います。批判的かつ建設的なコメントをするつもりで他の人の発表を聞く練習をすれば、自分の研究も客観的に振り返ることにつながりますから、二重の意味で勉強になります。ですから私が担当する初年次ゼミナールではピアレビューを非常に重視しています。少しずつ確実に研究を進めてもらいたいですし、絶対にコメントをしなくてはいけない状況を作ることも大事なので、毎回、全体を3-4人のグループに分け、そのグループ内で全員が研究計画と進捗状況を発表し、批判的かつ建設的にコメントをし合います。

中澤 ピアレビューやグループディスカッションでの相互コメントが授業の核ということですね。

学習環境の設定の大切さ

中澤 同期型ハイブリッド授業を経験された感想はいかがでしょうか?

岡田 講義パートとグループディスカッションのパートの両方が滞りなく行えるようにするための環境を、KALSという空間を活かしてどう作るかが焦点でした。アクティブラーニング部門の先生たちに相談に乗っていただきながらレイアウトや接続手順を決め、そのおかげで授業をスムーズに実施できました。コロナに感染して心細い中、オンラインで参加する学生が聞き取れなくて置いてけぼりになってしまうような結果にならないためにも、KALSをよく知り、機器に精通し、さまざまな形態の授業例を見ているアクティブラーニングの「プロ」の先生に相談できるというのはとても心強かったです。

中澤 ありがとうございます。

岡田 KALSは、ウェイティングルームとスタジオがありますね注2。オンライン参加者のいるグループのテーブルを、ガラス戸で教室と隔てられたウェイティングルームに配置することで、他のグループの音声が入らない形でグループディスカッションをさせることができました。他のグループがいる教室との間が全面のガラスだったので、当該グループが孤立感を感じることもありませんでした。

マイクスピーカーや複数のパソコンがあったので、全体で私やTAが話す部分とグループディスカッションとで使うマイクスピーカーを手元で切替えることで、スムーズに場面転換ができたという点もありがたかったです。一度その環境で授業を行ったことで、各機器の特性、とくにミーティングオウル注3の「癖」を把握できたので、KALS以外の教室でのハイブリッド授業の際に応用が効きそちらもスムーズに行うことができました。

中澤 学習環境や機材の設定で、気を付けたり、意識されたことっていうのはありますか?

 

岡田 ミーティングオウルは学期開始前に試行的に使ってみた上で、実際に教室で使った先生たちからの情報もいくつか収集していました。そこで他のグループの音声を拾ってしまってうまく機能しないという話を聞いていたのです。それが先ほどお話した「他のグループの音声が入らない形」につながります。声の大きさを制御しにくい学生もいますから、その点にはとくに注意しました。

それからグループにオンライン参加の学生と対面参加の学生がいる場合に教室のモニターをどのようにセットするかという点も結構重要だと思います。KALSの場合はウェイティングルームに可動式の大きなモニターがありましたから、オンライン参加の学生が含まれるグループにはそのモニターを使わせることで、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、無理のない姿勢で、活発に意見交換させることができました。

授業運営の様子やポイント

中澤 オンライン参加の学生とのコミュニケーションや、グループディスカッションでの介入など、授業運営で気を付けられたことや工夫はありますか?

オンライン参加の学生の不安を取り除く

岡田 先ほども言いましたが、オンライン参加の学生は、自分だけ教室に行けないということで強い不安を感じていると思うんですよね。例えば先生に余計な手間をかけてるんじゃないかとか、自分のせいで授業の手順が変わって他の学生に迷惑をかけているんじゃないかとか、そういうところを気にする学生たちは多いみたいです。ですからコロナに感染しても授業に参加できるくらいの健康状態であったり、濃厚接触のために健康に問題はないのに外出できないといった場合は遠慮なくオンラインの申請をして欲しいとITC-LMSのオンライン授業欄に書き、最初の授業時にもそう伝えていました。それから、教室だけでなくSlackも利用してできるだけ学生たちとコミュニケーションを取るようにして、オンライン参加の要求をするハードルをできるだけ下げるための工夫をしていました。コロナ感染や濃厚接触で授業を欠席するという通知をしてきた学生に、ハイブリッドで受けられますよって私から言ってあげたケースもありましたね。そうすると、もう熱が下がっていた子とか、濃厚接触で自分は元気だった子はとても喜んで、ぜひお願いしますと言ってくれました。ハイブリッドで参加させてほしいと学生が言ってこれるような関係構築の種を蒔いておくのがとても大事だと思いました。


注1
初年次ゼミナール文科についてはこちらをご覧ください。
http://komex-fye.c.u-tokyo.ac.jp/programmes

注2
KALSの構成はこちらをご覧ください。
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/kals/facilities/

注3
ミーティングオウルは360度カメラとマイク、スピーカーの一体型機材。

 

(2)につづく。