「働きがいやジェンダーを考える」(2020年度Aセメスター 第8回)

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全学自由研究ゼミナール及び高度教養特殊演習「働きがいやジェンダーを考える」のTAによる感想です。

授業の概要

アクティブラーニング部門開講授業「働きがいやジェンダーを考える」(担当教員:伊勢坊綾)では、学生の興味関心に基づき、働きがい、働く上でのジェンダーの問題に関する論文や文献を輪読し、ディスカッションを行っています。

ゲスト講師の紹介

第8回のゲストは、東京都立大学子ども・若者貧困研究センター 特任助教の川口遼先生です。川口先生は、ジェンダー・セクシュアリティ研究、男性性研究及び家族・労働・福祉の社会学をご専門とされています。また、子どもの貧困に関する調査・政策提言、貧困であることが男児・女児に与える影響の違いについての研究にも従事していらっしゃいます。

川口先生の講義内容

男性学/男性性研究を主題としてご講義いただきました。男性学/男性性研究が、女性学を踏まえた誕生の経緯により、男性性への省察を行うメンズ・フェミニズムと男性自身が抱える問題に着目するメンズリブの2軸をもって発達してきたこと、およびジェンダー秩序論などの理論が提示されてきたことなどをご説明いただきました。その後ディスカッションに向けて、男性学/男性性研究において生じてきた論争をご紹介いただきました。

グループでのディスカッションと発表、質疑応答

川口先生の講義後、グループに分かれて、男性の稼得役割追求の自己脅迫性や、男性であることの特権性および被抑圧性について、意見交換を行いました。活発なグループディスカッションの後、以下のような発表がありました。

●男性の方が稼ぎが多い方がいいかと言えば、(女性の声として)そうは思わない。自分が稼げていればよく、世帯としての合計で考えればよい

● 稼得役割への過度な期待によって、男性は苦しい

● 労働市場における性差別の問題を抜きにして議論できない

● 労働市場から降りることのリスクは、男性の方が大きい社会構造になっていることが問題

● 辛いなら降りればよいとなると、降りた男性に向けられる目が女性に比べてきついのではないか。その差が降りにくさに繋がるのではないか

● 降りる際の“ストーリー”を社会で準備することが大事なのではないか

● 地域や学歴によって、“望ましい”/“求められる”男性性が異なるのではないか。筋力等の身体的有能さと、頭脳や仕事上での有能さがあるのではないか

● マッチョイズムに対してコンプレックスを持ちつつ捨てられない男性が多い。そういう人たちはフェミニズムと親和性が低いと感じる。そのプライドを捨てればいいのでは?というのは論理的には正しいけれど、アイデンティティを紐づけていたマッチョイズムに変わる何かを与える必要があるのではないか。

川口先生からは、それぞれの意見や質問に対する応答と、関連する書籍のご紹介をいただきました。最後に、マジョリティ的な立場から問題に関わっていこうとする際、当然のように存在し見えづらい特権と抑圧について意識してほしいとのお言葉をいただき、授業は締めくくられました。

感想

熱心な議論や質問・応答が繰り広げられ、学生さんたちの関心が高いテーマであることがうかがえました。男性性に関する議論は、一般書やメディアで取り上げられることが増えている一方、女性学に比べれば学問として学ぶ機会はまだ決して多くないと思うので、今回川口先生から男性学/男性性研究の概要や理論について盛りだくさんの内容を教えていただけたことで、学術的にこのテーマについて考えるきっかけを掴めた学生さんが多かったのではないかと感じています。
また、この研究分野で生じている論争についても、川口先生は様々な立場からの論を取り上げ、「あなたはどう思う?」と問いかけるようにお話してくださったため、学生さんたちは思考を刺激され、ディスカッションも盛り上がったのだと思います。
これからまさに稼得役割というものを担うようになる学生さんたちにとって、問題や違和感に直面したときに状況を理解し対処していくためのよすがとなり、また他者の困難に気づくためのヒントともなるような知を得られた授業だったのではないかと思います。

(KALS TA 総合文化研究科博士課程 田中李歩