オンライン授業で大福帳を使う

「大福帳」は、学生が授業をふり返ったり、学生と教員がコミュニケーションできる手法で、出席の促進や積極的な受講態度、信頼関係の形成、授業内容の理解と定着を図れます(参考:「+15 minutes」p.26)。

教室で行われる授業では、13回の授業分の記入欄を作ったカードを学生に配布し、学生がコメントを記入して提出、そこに教員が短い返事を書いて次回授業時に返却…ということを繰り返します(参考:13回用の大福帳(Excelファイル))。

それでは、オンライン授業では、大福帳は活用できないのでしょうか。オンライン授業は、教員と学生のコミュニケーションが不足しがちです。オンライン授業でも大福帳を取り入れることで、学生の理解度や質問を把握して回答でき、さらにコミュニケーション機会を得ることもできるでしょう。

須曽野ら(2006)は、ウェブでコメントを読み書きでき、学習者どうしもコミュニケーションできる「電子大福帳」を開発しています。向後(2007)は、eラーニングシステムのテスト機能を使った「e大福帳」をeラーニング授業に導入し、学生が感じる孤独感の軽減などの効果を述べています。一方で、自分の履歴を一覧で確認できないといった改善点を挙げています。また、伊豆原・向後(2009)では、大福帳の機能を「レビューシート」という名前でLMSに実装してeラーニング授業で利用し、授業評価への効果を検討しています。さらに、早川(2017)は、「オンライン版大福帳」のウェブアプリケーションを開発しており、サービスとして提供しています

 

オンライン大福帳に必要な要件

「オンライン版大福帳」は便利に使えそうです。しかしここでは、大学で提供されているプラットフォームを使うことを目指したので、今回は使わないことにしました。(補足:オンライン版大福帳は、LMSとの連携も行えるそうです。これを行えば、大学で提供されているLMSでも利用できそうです。)

ここで求めるオンライン大福帳の要件は下記になります。

  • 大学で提供されているプラットフォームを使って行える(登録などのレクチャーを減らしたい!)
  • 学生がコメントなどを記入できる
  • 教員が返事のコメントを記入できる
  • 学生のコメント、教員のコメントの履歴が1枚にまとまっている
  • 大福帳を閲覧できるのは、その学生と教員だけ
  • 終了した回のコメントは編集できないようにしたい

 

これを満たす方法はないものか…エクセルを毎回提出してもらう方法、Google スプレッドシートを提出してもらう方法、LMS(東大の場合ITC-LMS)の掲示板での投稿など、様々な方法を考えました。そして最終的に、Google ClassroomとGoogle スプレッドシートを使った大福帳を試すことにしました。

Google Classroomを使った大福帳の実施手順

手順について説明します。

1.Google スプレッドシートで大福帳のテンプレートを作成する

 

2.【初回授業】Google Classroomの課題で大福帳のテンプレートを配布する

 

3.提出された大福帳にコメントを書く

4.すでに終わった授業回のコメント欄のセルを「保護」し、教員のみに編集権限を設定する

 

5.大福帳(課題)を返却する

6.【2回目以降の授業】Google Classroomで大福帳提出の課題を設ける
→すでにスプレッドシートは初回授業で配布してますので、Google ドライブ上の初回授業で使った大福帳のスプレッドシートを提出するように指示します。

7. 3.〜5.を行う

この方法を使った感想

実際にこの方法を試してみて、気づいた点、良いなと思った点を紹介します。

スプレッドシート(テンプレート)の配布が容易

Google Classroomの「課題」では課題作成のページで、Google スプレッドシートをどのように提供するかを選択できます。そこで「各生徒にコピーを作成」を選択すると、テンプレート(Google スプレッドシート)が自動的に学生のGoogleドライブにコピーされ、そこに学生は記入など行えます(参考ページ)。

配布後に体裁を整える指示をしたり、コピーして保存することを求めるといったことをしなくて良いので楽だなと感じました。

権限の自動変更が便利

Google Classroomでは、課題の提出や返却を行うと自動的にドキュメントの権限が変更されます。課題提出後は教員だけが編集可能になります。その際に、コメント欄(セル)の「保護」を設定することができます。

これは、単にスプレッドシートを共有するだけではなかなか難しいので(教員がオーナーで各学生と共有すればできますが手間が発生します)、Google Classroomを使うことで得られるメリットだと思います。

返事のコメント記入の負担軽減

この方法での大福帳に限らず、電子的な大福帳を行う場合はすべて当てはまりますが、紙ベースの大福帳よりも返事を書くのが早く、楽にできます。今回は受講者20名ほどの授業で使いました。大講義の場合は、定型文を用意するなどすることで、負担増加を抑えられるでしょう。

コメントの分量に制限がない

また分量を気にしなくてよいのも利点です。手書きの場合だとコメント欄の「枠」が決まっていましたが、その制限がなくなるので学生も教員も長文のコメントを記入できます。

しかし、長過ぎるコメントは、読む側の学生のことを考えると避けたほうがよいでしょう。

Google Classroomのメイン使用

この大福帳を運用するならば、授業で使うプラットフォームはGoogle Classroomになるでしょう。大学が提供するLMS(東大の場合ITC-LMS)と併用することもできますが、複数のプラットフォームを行き来することになってしまいますし、使用するプラットフォームは一つにしておいたほうが混乱は少なくなると思います。

教員がGoogle Classroomを使ったことがない場合などは、このやり方はハードルが高くなるかもしれません。

また中国からのアクセスができないといった状況もありますので、授業によっては利用できないことがありそうです。

今後の予定

この大福帳は、Sセメの授業で使い始めたばかりです。運用上の課題など出てきましたら追記します。

また、学生にも使い勝手など感想を聞いてみたいと思っています。その結果もいずれこのサイトでお知らせします。

 

参考文献

  • 須曽野仁志・下村勉・織田揮準・小山史己(2006)授業での学習交流を目指した「電子大福帳」の開発と実践. 三重大学教育実践総合センター紀要, 26, pp.67-72
  • 向後千春(2007)eラーニング授業でコミュニケーションカード「e大福帳」を使う. 日本教育工学会研究報告集, JSET07-5, pp.297-300
  • 伊豆原久美子・向後千春(2009)eラーニング授業におけるレビューシートの利用が授業評価に及ぼす効果. 日本教育工学会論文誌, 33(Suppl.), pp.53-56
  • 早川美徳(2017)オンライン版「大福帳」を用いた授業改善. 大学ICT推進協議会 年次大会論文集 https://axies.jp/report/publications/papers/papers2017/