「模擬国連で学ぶ問題解決法」(2019年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ問題解決法」(2019年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。受講者は13名(1年生6名、2年生3名、3年生3名、4年生1名)でした。

担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)
担当TA:村田幸優(教養学部教養学科相関社会科学コース)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。

そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的
国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。

到達目標
①国際問題の構造や原因を説明できる【中間レポートで評価】
②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【中間レポートで評価】③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【中間レポートで評価】
④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【期末レポートで評価】
⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【期末レポートで評価】
⑥模擬国連会議の教育⼿法としての特徴を説明できる【期末レポートで評価】

3.授業の流れ

ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回)

模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。

模擬国連会議:シリア人道危機(第2回~第7回)

2010年代を通して続いているシリア人道危機についての国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国、フランス、ロシア、英国、米国の5つの常任理事国に「中間派」の南アフリカを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を2・3人で担当しました。現実の会議と異なり合意形成が可能になった面もありましたが、最終的には拒否権が行使され、現実同様、決議案は廃案となりました。

第7回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。

なお、第4回には、国際連合政務・平和構築局 政務官の高橋尚子氏がゲスト講師としてお越しくださり、会議を講評してくださるとともに、国連職員の役割について紹介してくださりました。第6回には、外務省 政務官秘書官の山崎茉莉亜氏がゲスト講師としてお越しくださり、会議の講評とともに、外交官の役割について紹介してくださりました。高橋氏・山崎氏ともに学部生時代にサークル活動として模擬国連を経験した立場から、授業としての模擬国連についてもコメントをしてくださいました。

模擬国連会議:イラク戦争(第8回~第12回)

2003年3月のイラク戦争開戦直前の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第12回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国、フランス、ロシア、英国、米国の5つの常任理事国に「中間派」のチリを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を2・3人で担当しました。現実の会議と異なり決議案が採択され、当面の武力行使は見送られる結果となりました。

第12回では、シリアの際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。

なお、第11回には、読売新聞政治部 外務省担当記者の梁田真樹子氏がゲスト講師としてお越しくださり、会議を講評してくださるとともに、メディアの役割について紹介してくださりました。梁田氏もまた学部生時代にサークル活動として模擬国連を経験した立場から、授業としての模擬国連についてもコメントをしてくださいました。

まとめー模擬国連から学んだこと(第13回)

各自が模擬国連から学んだことについてふりかえりました。また、来年度の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

授業スケジュール

4.受講者の感想

・実際に一つの国を担当することによって得られた臨場感と責任感は輪読では得られず、より真剣な問題への向き合い方につながった
・座学(国際関係論など)で学んだことを実践に応用できる
・ロシアや中国の立場も彼らの利益を考えれば理解できることがわかった
・国際交渉の面白さや合意に達した時の達成感、逆に妥協の難しさ、限界を少しでも味わえたことは、今実際に社会で起きている国際問題の争点について積極的に関心を持つことに繋がった
・国連の決議を読む際に、前文・主文の区別、英語の文末の違い(現在系か現在進行形か)がどのように意味を変えているのか、等に注意して読むようになった。
・二回会議があったので、学期を通して会議行動面での成長を感じられた

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史)
kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp