全学自由研究ゼミナール
「大学の教育を変える学びのフィールドワーク」
アクティブラーニング部門では、2015年度Aセメスターより、「大学の教育を変える学びのフィールドワーク」と題する全学自由研究ゼミナールを新たに開講しました。
この授業では、大学内外の学びの場におけるフィールドワークを通じて、多様な学習環境や学習デザインを知り、大学教育のあり方について自らの考えを深めることを目的としています。
ここでは授業の概要や授業を受けた学生の感想を担当教員の感想を交えつつご紹介したいと思います。
授業ではまず大学における教育改革の動向や、参加・体験・活動をともなう大学内外の学びのあり方について講義をおこないました。
講義内容に対する理解を深めるため、「高校までの教育と大学教育との違い」「大学の特徴と役割」といった講義内容に関連するテーマを取り上げ、これらのテーマについて自らの考えをまとめたり、それを全体で共有したりするワークもおこないました。
大学内外の学びに関する考えや理解を自らの問題関心に沿って深められるように、フィールドワーク先となる「学びの場」は、学生自身に選んでもらいました。
学生が調査対象に選んだのは、大学が提供する公開講座、ファカルティ・ディベロップメント(FD)研修会、大規模オンライン公開講座(MOOCs)、英語での授業や留学支援、外国人学校における日本語教育、高校や企業が実施するインクルーシブ教育などでした。
フィールドワークを円滑に進められるように、観察・インタビュー・質問票の作成方法に加え、アポイントの取り方やフィールドワーク先でのマナーなどに関する講義もおこないました。
質問票作成やアポイント取得については、適宜、担当教員がサポートしました。
またフィールドでのインタビューに備えて、学生同士でペアになって相互にインタビューをおこない、気づいた点を互いにフィードバックするワークも取り入れました。
授業では他者と協力して課題に取り組む力を身につけることも重視したため、課題である最終発表は、個人ではなくチームでおこないました。
適切なチーム編成ができるように、各自の問題関心を共有する機会を、授業の進行過程で何度か設けました。
その結果、「大学教育」(公開講座、FD研修会)、「グローバル化への対応」(英語での授業、留学支援、日本語教育)、「多様性への対応」(インクルーシブ教育、MOOCs)をテーマとする3つのグループが結成されました。
最終発表では、フィールドワークを通じて明らかとなった多様な学びの理念や目的、学習環境、講師の工夫、学習者の立場や動機、講師-学習者および学習者-学習者間の相互作用などに関する考察結果が述べられ、それをふまえた学生目線での「新しい大学像」などの提案がなされました。
最終発表では、学生自らが作成した評価指標(ルーブリック)を用いて相互評価もおこないました。
記事「ピアレビューの効果的な導入方法」でも紹介したように、ルーブリックとは、課題の評価観点と評価基準を明示した表のことです。
ルーブリックは教員が学生を評価する際に用いることもできれば、学生が課題に取り組むためのガイドにしたり、自身の達成度合いを評価したり、ほかの学生を評価したりするのに用いることもできます。
一方、ルーブリックは、評価者の主観が入るなど信頼性の確保が難しい、学習者がルーブリックにある評価の観点を意識して課題に取り組み、学びの範囲が制限されてしまうといったデメリットも指摘されています(山田ほか 2015)。
授業ではこうしたメリットとデメリットを理解した上で、ルーブリック作成のワークを実施しました。
学生のルーブリック作成への参加は、学生が授業やフィールドワークを通じて学んできたことを振り返るとともに、評価者の視点をもてるようになるという点において有益であったと感じています。
授業では、大学外の学びに触れる機会として、ゲスト講師を招いたワークショップ形式の講義も実施しました。
民間学童保育と学習塾を兼ねたネクスファ副代表の辻義和氏と社会人を対象にリーダーシップに関するワークショップをおこなう東京アキュメン代表の灘仁美氏にご登壇いただきました。
図1 灘仁美氏によるワークショップ
辻氏のワークショップでは、ネクスファの学習 塾で提供されている「サス学(サステナビリティー学習)」という探求型学習プログラムを実施いただきました。
サス学は、受講生が様々な社会問題を”ジブンゴト”として捉えられるように、社会問題との”つながり”を体感し、問題に対する自分の考えを自らの言葉で表現できるようになることを目指しています。
学生はワークショップへの参加を通じて、こうしたサス学の理念や目的がプログラムにどのように組み込まれているのかを学びました。
また灘氏のワークショップでは、学生が実現したい夢を書き出し、そのために必要な活動や阻害要因のディスカッションを通じて、実現に向けたアクションプランを検討しました。
これらのワークショップは、学びの場におけるファシリテーションや、学習デザインの多様性を知る貴重な機会となりました。
図2 辻義和氏と「問い」を探す学生たち
授業後に実施したアンケートでは、最も学んだこととして、「学びの形の多様性」、「フィールドワークで観察すべき対象を体系的に学べた点」、「インタビューやアンケートをする力、またその知識と経験」といった講義テーマに関連する知識やスキルの習得をあげる学生や、「他者の考えを交えて自らの意見を推敲していくこと、その意見を誤解なく発信していくことの大切さ」といった協調学習の重要性をあげる学生がみられました。
また、授業を受けたことで、「教育について深く考えるようになった」として、行動に変化がみられたと述べる学生もいました。
さらに、「授業は教員だけが作り上げるものではなく、学生と教員が相互主体的に作り上げるもの」との認識が芽生え、来年度の授業支援を自ら志願する学生もみられました。
担当教員としては、授業設計やファシリテーションなどの面で反省もありますが、教員と学生が共に成長できる学びの場を提供できるよう、授業改善に努めていきたいと考えています。
参考文献
山田ほか(2015). 学びに活用するルーブリックの評価に関する方法論の検討. 関西大学高等教育研究, 6, 21-30.
(小原優貴)