2015年11月12日開催 アクティブラーニング・セミナー
2015年11月12日開催 アクティブラーニング・セミナー Active Learning Seminar
アクティブラーニング部門では、教育方法と関係のある内容のセミナーを開催しています。ここでは、2015年11月12日(木)に行われたセミナー「産学連携型プロジェクト学習によるリーダーシップ教育の実践: 立教大学ビジネス・リーダーシップ・プログラムの事例から」について報告いたします。立教大学ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)を運営されている立教大学経営学部の舘野泰一先生を講師としてお招きしてお話しいただきました(図2)。また、実際に BLP を受講し、BLPの学生アシスタント(SA)として活動されている経営学部2年牛込公美子さんと安藤沙紀さんにもお越しいただきました。
また、本セミナーは、本部門が実施している全学自由研究ゼミナール「アクティブラーニングで未来の学びを考える」の授業も兼ねており、当日は、受講生である学生が6名、希望された教員5名が参加してくださいました。
セミナーの構成
本セミナーでは、まず BLP と BLP において重要になるリーダーシップに関するレクチャーがあり、その次に BLP の一部をミニ体験しました。そして、再度 BLP のデザインに関するレクチャーがあり、最後にセミナーを振り返るためのディスカッションが設けられました。
BLPの概要
BLP は立教大学経営学部経営学科の1年生の春学期から3年生の春学期まで、5学期2年半をかけて行われるプログラムであり、立教大学に経営学部が設置された2006年から開始されました。「権限がなくても発揮できるリーダーシップの涵養」を目指しており、自ら目標設定をして、自らすすんで前に立ち、さらに同僚を支援する学生を育むことを教育目標としています。アクティブラーニングを取り入れた授業設計で、産学連携のプロジェクトを実行する授業とスキルを強化する授業で構成されています。1年生は春学期に「リーダーシップ入門(BL0)」の受講を通して課題解決のプロジェクトを行い、秋学期には BL1 で論理的思考力を養うため、ライティングスキルを強化します。2年生の春学期にはプロジェクト型授業、秋学期にはスキル強化型授業、3年生の春学期にはプロジェクト型授業と、2年半をかけて、プロジェクトの実行とスキルの強化を交互に行うプログラムになっています。
その成果は高く評価されており、文部科学省の質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)では「特に優れており波及効果が見込まれる取組」に認定され、教育再生実行会議の第7次提言では大学のアクティブラーニングの先行事例としてただ1つ紹介されました。
授業「リーダーシップ入門(BL0)」
本セミナーでは、特に重要な1年生の春学期に行われる「リーダーシップ入門(BL0)」について説明されました。BL0は立教大学経営学部の1年生約400名が受講する授業で、1クラス約20名、全18クラスで行われます。
BL0 の受講を通して、学生が実際にプロジェクトを行うという経験することで、他の授業で学ぶ専門知識の必要性を知ってもらうことが期待されています。授業内容は、学生がビジネスにおける課題に対してグループで取り組むというもので、実際の企業と連携して課題設定が行われ、最終的には選ばれた学生のグループが企業の方々の前でプレゼンテーションを行います。授業を通して、学生たちはそれぞれのリーダーシップを発揮する必要があり、リーダーシップの教育が重要になってきます。
リーダーシップと BL0 の設計
リーダーシップと聞くと、明確なビジョンを打ち出して、全員を強く引っ張るリーダーが発揮するものというイメージがありますが、それだけがリーダーシップではありません。正式に任命されたリーダー以外のメンバーが誰でも発揮できるリーダーシップもあります。そこで、200ほどリーダーシップの定義がある中、BLP では最小限身に付けるべきリーダーシップを「目標設定・共有」「率先垂範」「同僚支援」の3要素に絞り込みました。つまり、BLPは、明確な成果目標を設定および共有し、率先して模範となる行動をとり、同僚が動きやすいように働きかけるリーダーシップを身につけるよう設計および実施されています。
そのようなリーダーシップを身に付けるため、経験と振り返りの両輪をまわす授業構造になっています。構造は「目標設定」「経験」「ふりかえり」の3要素から成り立っています(図3)。目標設定では、リーダーシップをどのように発揮するかといったリーダーシップ目標の設定を行います。そして、経験では、リーダーシップが必要になるビジネスプランを提案するプロジェクトを実際に体験します。そして、ふりかえりでは、学生が相互にリーダーシップ行動に対してフィードバックし、そのフィードバックを元に目標を振り返り、次の行動計画を立てます。このように、目標を立てて、経験し、体験して、そのまま終わるのではなく、そこからさらに振り返り、それを次につなげる構造となっています。次にご紹介する BLP ミニ体験も同様の構造となっていました。
BLP ミニ体験
BLP の説明後、セミナー参加者も BLP をミニ体験できる時間がありました。課題は「訪日外国人旅行者によってあなたの地元が活性化する新たな仕組みを提案せよ!」というビジネスプランを3人1グループで考えて提案するものでした。グループメンバーの出身地から地元を1つ決定し、海外の国を1つ決め、その国の人々を地元に呼び寄せるビジネスプランを考える課題でした。
課題に取り組む構成も、BLPと同様になっており、まずはグループメンバーが各自リーダーシップ目標を決め、共有しました。その後、実際にビジネスプランの作成にグループで取りくみ、全体で発表しました。そして、グループ内でメンバーがリーダーシップ目標に対して相互にフィードバックしました。以下、詳細について説明します。
まず、参加者はそれぞれグループワークにどのような貢献をするか、具体的なリーダーシップの行動に関する目標を設定し、共有しました。「話がそれないように良い感じに話をまとめたいな」といったラフな目標や「積極的なアイディア出しと議論の促進をします」といった目標が挙げられ、グループ内で共有されていました。
そして、各グループは、活性化する地元と対象となる外国を決め、ビジネスプランを作成しました。例えば、千葉県とインド、東京都とアメリカ、下北沢とアメリカといったように、色々な組み合わせが生まれ、それぞれの地元や国の特徴を活かしたビジネスプランが作られました。
発表では、全体に対して各グループがビジネスプランを共有し、投票が行われ、3つのグループが同率1位になりました。アメリカの若者を対象に神社でファッションショーを行う「下北インターナショナルファッションコレクション」がその1つで、他も特色豊かなビジネスプランでした。
そして、最後に、グループ内で、グループワークでのそれぞれの行動を思い出し、元々共有したリーダーシップ目標が達成できているかを振り返りました。例えば、議論を促進するという目標を共有していたメンバーには、「途中で意思決定して、議論を次の段階に進めてくれたのが良かった」といったフィードバックがありました。
ディスカッション
BLP のミニ体験を経て、参加者はそれぞれのグループで、このセミナー全体を振り返りました。各グループには、セミナーの講師か BLP の SA が入り、実際の BLP の様子や運営に関する質疑応答なども行われていました。ある学生は「(立教大学には)このようなプログラムがあって羨ましい。東大にはないのか?」と BLP の価値を高く評価し、本学にもこのようなプログラムを導入してほしいと話していました。
受講者によるアンケート
学生からは「参加者全員にリーダーシップを身に付けてもらうという考え方が印象的でした。様々な場面で努力が認められることで、自分にはリーダーが向かないと思っている学生も徐々に自信を付けられるのだなと思いました。」といったコメントがあり、全体的に肯定的な感想でした。
また、教員からは「SAの方の話が聞けたことがとても良かったです。SA を体験することまでセットで、学びが深まるという部分の大きさを再認識しました。」や「リーダーシップ教育とアクティブラーニングの重要性を再認識しました。楽しい、また参加したいです。」といった SA、リーダーシップ、アクティブラーニングの重要性に関するコメントがあり、全員が肯定的な感想でした。
筆者の感想
レクチャーと体験が絶妙にブレンドされたセミナーになっており、参加者も非常に満足していましたし、見学していた私も非常に楽しませてもらいました。リーダーシップを学ぶ上で、体験と振り返りが重要だということが強く印象に残っています。BLP のミニ体験でも、体験(ビジネスプラン作成)と振り返り、という構成がとられていたのに加えて、セミナー自体も、BLP のミニ体験と振り返り(ディスカッション)、という構成がとられており、非常に一貫性の高いセミナー構成だと感じました。体験と振り返りが大事だと単に伝えるだけでなく、受講者が実際にセミナーおよび BLP のミニ体験で体験と振り返りを実践できる素晴らしいセミナーでした。有意義なセミナーを行ってくださった舘野先生、SA の牛込さんと安藤さん、誠にありがとうございました。(吉田)