「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2021年度Sセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2021年度Sセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスターから毎期開講しており、今回が4期目の開講となりましたが、受講者は6名(2年生3名、3年生1名、4年生2名)でした。

担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)
担当TA:八尾佳凛(教養学部教養学科国際関係論コース)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。

そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的
国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。

到達目標
①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】
②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】
③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】
④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】
⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回)

模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。なお、今セメスターも、前々セメスター・前セメスターに続き、全回ZOOMミーティングを用いたオンライン授業となりました。

模擬国連会議:イラク戦争(第2回~第7回)

2003年3月のイラク戦争開戦直前の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(査察継続派)、フランス(査察継続派)、ロシア(査察継続派)、英国(即時開戦派)、米国(即時開戦派)の5つの常任理事国に「中間派」のチリを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1人で担当しました。現実の会議と異なり決議案が投票にかけられ、即時開戦を避けつつも、査察期限を明確に設け、その結果次第では武力行使への道が開かれる内容の決議案が採択される結果となりました。

第7回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。TAを務めてくれた学生が前年度の受講者であったことから、前年度の模擬国連会議との比較といった観点から議論することもできました。

模擬国連会議:DPRKの核開発(第8回~第12回)

2017年9月のDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)による6度目の核実験後の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(圧力強化消極派)、フランス(圧力強化積極派)、ロシア(消極派)、英国(積極派)、米国(積極派)の5つの常任理事国に日本(積極派)を加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1人で担当しました。現実の会議と同様、経済制裁の強化を盛り込んだ決議案が採択される結果となりました。

第12回では、イラク戦争の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。

まとめー模擬国連から学んだこと(第13回)

各自が模擬国連から学んだことについて、①国際関係の知識・技能面、②合意形成の知識・技能面の両面からふりかえりました。教員からは、2000年代のイラク情勢が2010年代以降のDPRK情勢、ひいては大量破壊兵器全般をめぐる問題に、どのような影響を与えているかを問題提起し、受講者間の議論を促しました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

授業スケジュール

4.受講者の感想

  • Policy Paperを準備する中で、公式会合の発言では出てこないようなより深い利害関係や、意図などをある程度汲み取ることができた。また、各国の態度は多いに国内情勢の影響・拘束を受けることがわかった。
  • 安心供与のような国際関係論の理論を使いつつ学べた。
  • 自国にとってはあまり重要性の高くない国・地域の課題について、安保理におけるプレゼンスや大国との関係性を維持しながら関わる必要があることを学んだ。
  • 五大国とそうでない国のどちらも経験したことで、国連安保理において様々な国がどういったモチベーションをもって臨んでいるのか少し体験できた。
  • 交渉の中ではしばしば妥協することが必要となる。ゆえに、これ以上は譲ってはいけないというボトムラインを設定し、それを会議中も明確に意識することが重要だと学んだ。
  • オンラインのため、対面での交渉に伴う緊張感のようなものを味わえなかった。言葉だけでなく、表情や仕草からも相手の意図を察知する経験が積めればなおよかった。
  • Policy Paperで問いがすでに立てられていて、またフローチャートみたいな形で授業が展開されていて、参加している身としても授業の流れが非常にわかりやすかったです。

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史)
kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp