オンライン授業でポスターセッションアレンジ版で発表

オンライン授業での学生による成果物発表、どのようにされていますか?少人数のクラスであれば、Zoomのメインセッションでグループもしくは学生が交代で画面共有などして発表するかもしれません。大人数でのクラスの場合、いくつかのグループに分けてブレイクアウトルームを設定し、そのグループ内で発表してもらうこともあるかもしれません。

対面授業での発表形式の一つに、ポスターセッションがあります。ポスターセッションは、学生が一人ずつ、もしくはグループでポスターを作り、ポスター発表と他のポスターへのコメントを授業中に行う活動です(+15 minutes pp.40-41)。特に、グループでポスターを作成した場合は、一人のメンバーを説明者としてポスター前に配置し、残りのメンバーは他のグループのポスターを閲覧して内容を検討するやり方を行うこともあります。

今回は、グループでポスターを作成した時のポスターセッションのやり方を援用した、オンライン授業での学生による成果物発表のやり方を紹介します。

発表方法の概要

ここでは、クラスに5グループ(1グループ3〜4名)ある授業での発表方法を想定します。各グループで作成している成果物の中間発表を行い、各グループの成果物について進捗状況の共有や工夫している点、困っている点を発表を通じて共有し、他グループの学生からコメントをもらったり、他グループの成果物の良い点に気づけるような機会を設定します。さらに、それらを踏まえて自分たちの成果物の改善点を明らかにすることを目的とします。またグループのメンバー全員が発表に関わってもらえるよう、全員に発表機会を与えることも目指します。

これらをまとめると、発表方法を検討する際の要件は下記になります。

  • クラスには、5グループ(1グループ3〜4名)ある
  • 他の学生からのコメントを得られるようにする
  • なるべく多くのグループの様子を見てもらえるようにする
  • 全員が何かしらの発表や質問への回答を行える

 

この要件を満たすため、ポスターセッションのやり方を援用し、次のような発表を行うことにしました。

  • クラスを3つの大グループにわける→1グループ4名の場合、1つの大グループに同じグループの学生が2名いる場合もあり、その時は1人は発表、もう1人は発表の補足や質問への回答を行う
  • それぞれの大グループには、5グループの学生が一人ずつ入る→1つの大グループは、グループA, B, C, D, Eの各メンバーで構成される
  • 大グループごとにブレイクアウトルームを設定する
  • ブレイクアウトルームでは、5グループの学生が順番に発表し、その発表に対して互いにコメントし合う
  • 大グループでの発表・相互コメントの後、自分のグループに戻り、得たコメントや質問、他グループの成果物に対する感想や参考になる点を共有し、自分たちの成果物の改善点について議論する

なお、大グループでの発表については、相互評価を行えるチェックシートを使います。その詳細については、こちらをご覧ください。

授業前の準備

発表時間を決める

1コマで発表を行う場合、どのくらいの時間を発表時間に使えるか、時間配分を検討します。たとえば、90分の授業のうち、中間発表に使える時間が50分だとすると、1グループ10分が持ち時間になります。その10分のうち、4分で発表、6分で質問・相互コメントを行う…といった設定を行います。

今回は、中間発表後に各グループに戻ってコメント共有をしますので、たとえば、90分を次のように配分します。

時間配分 授業内容
15分 導入(学習目標・授業の流れの説明、発表方法の説明など)
55分 中間発表(大グループでの発表、質問・相互コメント)
15分 各グループでの情報共有
5分 まとめ、次回授業の予告など

導入は実質10分の予定ですが、ブレイクアウトの準備のため余裕を持って15分としました。中間発表も同様に、実質50分ですが余裕を持って55分を想定しています。

大グループでの運営方法を決める

3つの大グループに分かれた後、発表がスムーズにいくような運営方法を検討しておく必要があります。1グループあたり「4分で発表、6分で質問・相互コメント」であることを学生に伝えることはもちろんのこと、発表順や進行役を決めておくことも欠かせません。

また、この形式を取る場合、TAがいるかどうかが運営に大きく影響します。TAがいる場合は、大グループに入ってもらい、進行役を担ってもらうとよいでしょう。TAがいない場合が大変です。教室ですと、教員一人でも問題なく進められますね。オンライン授業ですと、大変です。

実は今回は、TAがいない状況でこの発表方法を実施しました。なにかトラブルがあった場合、あるいは発表運営がうまくいかない場合にすぐにフォローできるようにしておかねばなりません。そのため、今回は、3台の端末(パソコン/タブレット)を使いました。3つの大グループのうち、1つのグループはメインセッションで発表などしてもらい、残りの2グループを2つのブレイクアウトルームに割り当てます。3台の端末のうち、2台の端末でそれぞれのブレイクアウトルームに参加し、状況をモニタリングすることにしました。

相互評価のためのチェックシートを用意する

相互コメントの観点を明確にするため、相互評価チェックシートを用意しました。これについての詳細は、こちらをご覧ください。

成果物の共有方法を決める

学生は、自分のグループで作成した成果物について発表します。その成果物をどのようにほかの学生たちと共有するかを決めておきます。成果物の内容・種類によっても共有方法は異なると思いますが、たとえば、発表時に画面共有で提示してもらう、というのも一つの方法です。

今回は、Google Driveにすべての成果物がありましたので、授業開始前の時点の成果物を「中間発表用フォルダ」にコピーし、相互閲覧できるようにしました。その時、コピーした成果物の編集権限を「閲覧のみ(コメント可)」に設定しました。これは、中間発表前までの成果物と、その後の改善した成果物との違いがわかるようにするためです。授業の最終回で学生たちが学習プロセスを振り返ることを予定していたため、中間発表時点での成果物が確実に残るようにしたのです。

授業中の運営

中間発表用の大グループを設定する

中間発表では3つの大グループにわかれます。授業開始後、各グループから最低1人のメンバーがそれぞれの大グループに入るよう、ブレイクアウトを設定します。

中間発表の様子をモニタリングする

3台の端末を駆使して(?)、それぞれの大グループの様子をモニタリングします。うまく進んでいない場合は、適宜介入します。

またトラブルなど起きた場合は、「ヘルプを求める」を押してもらうように学生に伝えておきます。ヘルプを求められた場合は、その大グループにいき、対処します。

時間管理について通知する

発表を時間どおりに進めるため、1グループ目の発表時間が終わる頃にブレイクアウトの機能を使って全員にメッセージを通知します。同様に、次のグループに移るぐらいの時間にも通知を出します。

各グループのブレイクアウトを設定する

中間発表後、各グループに戻って情報共有しますので、そのためのブレイクアウトを設定します。TAがいない場合は、ブレイクアウトを設定している間は、「中間発表でもらったコメントや他グループの様子をふり返ってください。グループに戻ったらどんなことを共有するか考えておいてください。」と学生に伝え、考える時間を作ります。

授業後にやること

授業中は、中間発表に対して、教員から十分にフィードバックすることができません。そのため、授業後に各グループの成果物にコメントなどするとよいでしょう。また、各ブレイクアウトルームの様子を各端末でレコーディングすることもできます。各ブレイクアウトルームでの中間発表をレコーディングしておき、授業後に改めて様子を確認したり、フィードバックの参考にすることもできるでしょう。

この方法を使った感想

多くのグループの発表に触れられる

この方法を試行した授業での成果物は、ほかのグループの成果物を見ることで自分たちの成果物の質を高められる性質のものでした。そのため、なるべく多くのグループの成果物を見る機会を作ることが、最終的な成果物作成に有用でした。

学生からの授業後のコメントでもほかのグループの進捗や成果物が参考になったという意見が得られており、この方法で中間発表を行ったことで、その目的は達成できたと考えられます。

全員が発表の機会を持てる

オンライン授業に限らず対面授業においても、グループワークに積極的に参加しない、フリーライダーになってしまう問題があります。全員が発表することは、自分のグループの活動内容を把握し、グループワークを自分事と捉えられる機会になりえます。その点において、この方法は良いなと思いました。

グループの数が多い場合どうするか

今回は、クラスに5つのグループがありました。もし、10以上のグループがあった場合、どのように運営するのかについては検討が必要です。特に、大グループの組み方を工夫する必要があるのですが、場合によっては大グループ自体が5つなど多くなる可能性もあります。大グループが多くなると、TAがいたとしても発表運営が難しくなるでしょう。

グループの数が多い場合は、授業の学習目標到達のために、何を優先するかを見定めて運営方法を決める必要があります。たとえば、より多くのグループに触れることを優先するのか、それとも全員が発表する機会を優先するのかで、運営方法が変わってきます。それらが学習目標到達のためにどのように影響するのかを検討して運営方法を決めるのがよいでしょう。

一方で、対面授業の場合は状況が変わります。対面授業では、教員が一人で授業運営していたとしても、それぞれの大グループの様子を俯瞰的に見ることが可能です。もちろんグループ数にもよりますが、オンライン授業とは異なり、グループの数が多くなっても運営しやすいと考えられます。

モニタリングが大変

上記のグループの数が多い場合や、TAの活用にも関連することですが、複数のブレイクアウトルームをモニタリングするのはなかなか大変です。3台の端末の音量を小さくしたり、大きくしたりして、優先的に視聴するブレイクアウトルームを切り替えてモニタリングするのですが、トラブルが生じたりすると混乱しがちです。TAや、手助けしてくれる人がいる方が、安心です。

TAがいたほうが良い

大グループでの発表運営を円滑に行うためには、TAがいたほうがよいです。大グループの数によっては、教員一人でも運営できます。大グループが多くなればなるほど、TAがいたほうが、トラブル時に対処しやすくなりますし、安心です。また発表に対するフィードバックという観点でも、TAがいて学生の発表にコメントしてもらえるようにしておくと、学生の学びを深めることに繋がると思います。

 

今回は、ポスターセッションのやり方を援用したオンライン授業での発表方法を紹介しました。発表の目的や、学習目標との関連によって、どのような方法がいいのかを検討・決定していくことが重要だと思われます。